パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

溺れる人魚

溺れる人魚 (ディアプラス文庫)

溺れる人魚 (ディアプラス文庫)

いつき朔夜さんにはこの人にしかない語彙があって、文章に親しんでいるだけで快い。
今回、ぐっときた単語は「骨っ節」です。主人公の「なまり」とも相俟って、ほんのりノスタルジックな香りの漂う世界を作り上げている。イマドキではないけど、けして古くない。忘れていた記憶をそっと揺さぶられるような感じ。
原因不明の故障によって水泳選手として窮地にたたされている眞生。アスリートとして鍛え抜かれたしなやかな身体と、うらはらに未熟な心を持つ彼を、遊び人の桂は次なる恋愛ゲームの獲物として見定めた。
純粋でまっすぐな眞生と、恋愛=快楽追求のためのゲームでしかない桂の、てんでかみあわない追いかけっこがおもしろかった。どれだけ眞生になじられようが、泣かれようが、桂は火遊びを繰り返す。眞生を試すでも、男に本気になっている自分から逃げるでもなく、「習い性」で快楽へ流されてしまう桂のろくでなし加減ときたら!こういう不遜な攻めが、最後には受けのまえに跪くってのが醍醐味。