パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

くちびるに散弾銃

くちびるに散弾銃 (ショコラノベルス)

くちびるに散弾銃 (ショコラノベルス)

着々と海賀さんを読み進み中。疲れてはてて、電気を着けたまま眠りに落ちる日が二日続いております。
「くちびるに機関銃」に登場した、国税局勤務・住吉のスピンオフ。
海賀さんは人の弱さを書くのが巧い。大人である住吉は、「好き」という気持ちひとつで突っ走ることができない。同じ男である裕太を好きになってしまった自分を分かっていながら、世間に後ろ指を指されることが恐ろしくて、裕太からも自分の気持ちからも逃げ回る。
やることはやっておきながら、肝心な言葉は何一つ渡さない。裕太が健気に住吉を信じようとするから余計に住吉のずるさが際立つが、裕太だって臆病だ。住吉が二人の幸せな未来を描けないように、裕太も住吉を信じきることができない。
素直になれない二人のやりとりは、もどかしくてたまらないのだけれど、とても人間くさい。ぶつかり合って傷つくより、諦めて離れてしまうほうがずっと簡単だ。盲目になれない臆病者たちの、けったいな恋。