パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

アウグスツス

1巻は微妙な感想だったけれど、こちらはホームラン!
主人公が抱えている孤独感を「蝿がついてくる」と表現したところで、これはきっといい、と思った。
肉親の愛情に飢え、我侭放題で育った望。だれもかもが言いなりの屋敷の中で小さな暴君として君臨していた望をはじめて叱ったのは、父が連れてきた同い年のはとこの勇也だった。喧嘩を繰り返しながらも、やがて望にとって勇也はかけがえのない存在となっていく…という、とりたてて珍しいところはない幼馴染みのすれ違いものなのだけど、緻密な心理描写に説得力があって、いったいどんな結末がまっているのか最後までハラハラしっぱなし。
ハッピー、アンハッピーという言葉では容易に形容しがたいラストシーンがまたうまくて、余韻にしばしぼんやりしてしまった。
あとがきにあるとおりまさしく本性発揮。じっとり暗いなかに光るものが感じられるような質の話なので、容易にお勧めしがたい本ではあるけれど、海賀さんの凄みを存分に感じさせる一冊だった。個人的には大好き。