パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

同人誌6冊

犬組「ホールド・ミー」「雨にぬれても。」1・2
「雨に〜」は未完なんでしょうか…!(泣)死ぬほど湿っぽくていい話なんですが。義兄弟でオヤジ同士(ヒゲと眼鏡)でヤモメですよ、夢のよう。
ユギさんの漫画を読んでいると、エロはなくともエロスは描けるということがよ〜くわかる。煙草に火をつける仕草や、まなざしだけで充分にいやらしい。二人の間には何も起こっていないのに、こいつらには何事かあったはず…と思わされる。


青いカラス「高村薫/再録本」
羽海野さんの同人誌って、もんのすごく高騰してるんだろうな〜と何気なく覗いてみたら、思ったほどのもんでもなかった。だもんで、つい買っちゃった!大人になるってスバラシイ!
ストーリー漫画はなく、原作への愛ある突っ込みに満ちたパロディ。こういうお遊び本って、あくまで作者の趣味の範囲をでないものが多いけど、これはすごい!!片手間でちょっと妄想してみました…なんてかわいいものじゃなくて、才能と画力のすべてを賭けて全身全霊で遊び尽くしたという感じ。李歐の「北斗の拳」パロ(リオウとラオウの語感の相似から。ただそれだけ。)をやるために漫画全巻購入するなど、常人には真似できない情熱が注がれている。
そして、羽海野の画力とセンスはやっぱり尋常じゃない…と再確認。文章だけ読んで、ここまで克明に人物像や世界観を再現してみせることができるなんて!自分の想像と食い違うところはもちろんあれど、見たはずもないのに「そうそう、こういう風景だった」と、記憶を喚起される絵がいくつもあった。
「素晴らしき半田修平の世界」は文句のつけようのない傑作!すごすぎてこわいわ!!


peridot「ロマンスの黙秘権〜a miracle of you〜」
本編終了から半年後。文庫本2冊分くらいありそうなボリュームだけど一気読み。啓が交通事故の国選弁護を引き受ける。啓の弁護士としての信念がより踏み込んだかたちで語られていて、一巻で啓が「真実」にこだわり続けた理由がすとんと胸に落ちた。
ものすごく綿密な調査シーンが描かれていて、それゆえに商業誌ではまず無理とプロット段階で差し控えたそう。でもこの調査シーンが面白かった!交通事故が啓の弁護士としての原点。事件には本編以上に気合いが入っていて、とても読みごたえがあった。
そして、ついに准己が啓に――という、ファンへのご褒美ともいえるサプライズもあり。あ〜、続きが読みたいっ!
事務所の所長・田上先生視点の掌編という、同人誌ならではのお楽しみもあって大満足の一冊。


高遠琉加「夢の庭」(愛と混乱のレストラン全員サービス小冊子)
「破壊と再生」という、高遠さんの揺らがぬテーマに貫かれたシリーズだった。
かつて誕生日のレストランでぼろぼろに壊れてしまった理人は、自らの手で自分自身をつくりなおした。はりぼての理人は久我によって再び壊され、久我の与えた料理が理人を再び生きるものへとつくりかえた。
ときに彼女が描く圧倒的な喪失感はなにも特別なものではなく、生きるものすべてが避けがたく経験することだ。私たちは絶えず何かを失いながら生きていく。絶望を引き受けてはじめて生命は輝くのだという静かな覚悟が、高遠琉加の物語の底にはいつも流れているように思う。
だからこそ、永遠を信じない理人にもたらされたたったひとつの約束が、このうえなくかけがえのないものに思えるのだ。