パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

四畳半一間の内緒話

Babyコミックス 四畳半一間の内緒話(POE BACKS) (POE BACKS Babyコミックス)

Babyコミックス 四畳半一間の内緒話(POE BACKS) (POE BACKS Babyコミックス)

「親愛なる東雲家へ」は、「ハードル蹴倒して突っ切ったら、一着とれた障害走」みたいな力技のハッピーエンドにポカーンとしてしまったのだけど、無機物擬人化ならどんな不条理もどんとこいだろう!と再チャレンジ。
そしたらこれが大当たり。とてもいい短編が入ってた!
それぞれの岐路を前に、最後の学園祭に臨むバンド男子を描いた「情熱的な音楽とひかえめな恋のはなし」。もっと長い尺で描いてほしかった!と切望するけれど、4人の個性と音楽のすばらしさと青春のかけがえなさを、たった18頁に一切の過不足なく収めたことこそすごい、と思いなおす。ああ、でももっと、こいつらのことを見ていたかった。
ラストシーンのトオルの独白が泣ける。
自分がずっとこの時間が続けば…としか思っていなかったときに、晴美はずっと遠いところを見据えていた。同じ箱庭で同じ時間を過ごしてきたはずなのに、「追いつけない」。
でも、晴美が臆せず飛べるのはきっと、自分の代わりに泣いてくれたトオルがいるからなんだろう。
人生でいちばんうつくしい夜を、そっと見せてもらったような短編。心が震えた。