パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

B.L.T

B.L.T (新装版) (ビーボーイノベルズ)

B.L.T (新装版) (ビーボーイノベルズ)

家に居場所を見つけられない14歳の眞人。子どもに恋したゲイサラリーマン・大宮。
14歳の中学男子ととっくに成人したゲイの恋愛なんて、常識で考えればありえない話だ。心のなかで「かわいい」「触れてみたい」と妄想しているだけなら自由だが、実行してしまえば犯罪にほかならない。しかし、恋は人からまともな思考を奪ってしまう。
心理描写に秀でた作家さんはたくさんいるけれども、そのなかでも木原音瀬が突出しているのは、優しいや切ないや愛しいといったこころよい心情だけでなく、悲しいや苦しいや憎たらしいや殺したい、のような人間のダークサイドを克明に抉りとるところにあると思う。
大宮とわがままな恋人が繰り広げる修羅場は、下手な昼ドラより数十倍怖かった!
ことあるごとに「死んでやる」と騒ぎ立てる恋人に昼も夜もなく振り回され、疲れ果てた大宮の心に魔が差す。大宮の心の変遷があまりにリアルで、誰かを殺したいって思うのってこういうときなのかもしれないな…と恐ろしい実感を得てしまった。