パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

雪しのぶ

雪しのぶ (ライブノベルス)

雪しのぶ (ライブノベルス)

代々、桜部として山の樹木を守る家に生まれた主人公の挫折と再生を描いた物語。BLレーベルから出ているのですが、ジュブナイルとして読んでも十分楽しめるのではないだろうか。
古木「吟老」を枯らしてしまい桜部としての道を絶たれた主人公・匡成が山を下り移り住んだ島で、緑の妖精のように純真無垢な少年・千と出会う。ボーイズラブとして読めば、この本は互いに生きづらさを抱える匡成と千が島のあたたかな人々に囲まれて、少しずつ心を通わせていく物語だ。
しかし少し確度を変えて見れば、慣習に囚われた閉鎖的な山の中で、互いに依存しあうようにして歪な絆を築いた匡成と綾瀬が、それぞれの因縁から解き放たれ己の道を歩き始めるまでの物語、ということになる。
千と綾瀬、二人のうちどちらかを「当て馬」にするではなく、三人の門出の物語としてまとめた手腕はさすが。どれほど身体を重ねようと何も生まれなかった匡成と綾瀬の間に、終わりを選んだことでようやく「始まり」が訪れる。自分の生きる道を選びとることの厳しさが、胸に迫った。