パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

夜の寓話

夜の寓話 (SHYノベルス)

夜の寓話 (SHYノベルス)

杉原さんといえば、「スローリズム」をはじめとしたしっとり切ないラブストーリーが得意な印象があるが、じつは幅広い作風を持つ作家さんだ。
ラノベ調SFファンタジー「星の国から」、独白めいた一人称で紡がれる隠微な官能小説「37℃」、児童文学みたいにやわらかで清廉な空気をまとった「世界が終わるまできみと」など、ストーリーだけでなく文体や人称も変幻自在に操って、毎回異なる世界観を構築してみせる。
杉原さんはきっと読書家なんじゃないかな。本が好きで、いろんなジャンルの小説を読んできた人でなければ、こうは書けないんじゃなかろうか。
「夜の寓話」でもあたらしい一面を見せてくれた。
ここのところかわいこちゃんが多かったということで、今回は大人の執着愛。由緒ある芸術家一族の死にまつわる秘密を骨格に、硬派なミステリーに仕上がっていた。二段組で読み応え満点。