パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

青空の卵

青空の卵 (創元推理文庫)

青空の卵 (創元推理文庫)

藤たまきのコミカライズから、原作に着手。
原作を読んで一層、《ひきこもり探偵シリーズ》はミステリーという以上に、鳥井と坂木という現代を生きるには不器用すぎる青年たちの成長物語だと感じた。
坂木が鳥井のもとへと運んでくる事件はすべて、人の「生きづらさ」にまつわる問題。
女は性の道具なのか?障害者はかわいそうなのか?妻は夫の所有物か?子どもに自分の将来を選ぶ権利はないのか?散々議論し尽くしたかのようにみせかけて、なあなあのままに蓋をされてしまっている多くの不条理に、鳥井や坂木は裸でぶつかっていく。彼らのあがきはあまりに無防備で痛々しいほどだ。
どれほど殴られようと逃げない鳥井の苦しみに、なんども無力を思い知らされながら諦められない坂木の涙に、「見えないふり」している自分を糾弾されているようで、正直、読みながらいたたまれなくなる部分もあった。「癒し系」なんてやわなイメージを抱いて読めば、隠した棘でぐっさりいかれてしまう。
この物語は無力や無知にあまんじて己を哀れむような、あまい感傷をゆるさない。
誰かを糾弾するのでも己の無力にただうなだれるのでもなく、坂木と鳥井は「自分に何ができるのか」を掴み取ろうと格闘している。潔癖で臆病な鳥井もようやく固い殻を破るだろうか。
二人の世界が、このあとどう変わっていくのか期待。