パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

仔羊の巣

仔羊の巣 (創元推理文庫)

仔羊の巣 (創元推理文庫)

坂木と鳥井の友情に素直に感動するべきなのかもしれないが…どうにももやもやするものを感じつつ読了。
しかし、私の漠然としたひっかかりは、解説の有栖川有栖が快刀乱麻に解決してくれた。
有栖川先生の解説はいつだって明快だ。北村薫加納朋子にも解説を寄せていたが、いずれも物語をより深く味わうためのよい手引きになった。敬意を表して、きちんと小説も読むとするかな…。閑話休題
「自分が傷ついたからといって、人を傷つけていい理由にはならない。」まったくそのとおりである。
鳥井の態度はルール破りなだけでなくマナーを無視したところがあるし、坂木はそうした鳥井の未熟さを美化しているきらいがある。二人きりで完結された世界は純粋でうつくしいが、歪なものだ。
本書はその閉じた世界の歪みを歪んだまま描いているから、第三者である私は違和感を覚える。
鳥井の傍若無人な態度に腹をたてたり、坂木の鳥井への傾倒っぷりに距離を感じたりもする。こうした違和感は現実世界でも感じうるものだ。他者とのコミュニケーションそのもの。価値観も感性も異なる人間が本気でわかり合おうとするなら、傷ついたり、苛立ったりすることは避けられない。
鳥井という非常に繊細で鋭利で厄介な男とどう寄り添っていくか。そのこたえを模索しているのは、坂木であり、読者である私自身でもあるのだろう。