パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

ひとつやね

やっぱりはん子さんは上手い、と感嘆してしまう短編集。
子持ちやもめとボンボンのホームコメディ「ひとつやね」、幼馴染みの二人が一線を超えた夜を描く「となりの晩ごはん」、わがまま作家と担当編集の歪な恋「室温25℃」。
とりたてて目あたらしさのない設定も、ペーソスとユーモアを帯びた軽妙なはん子節で語られればあら不思議、あたたかくもチクリと胸に刺さる物語へとはや変わり。
はん子さんの描く恋の成就はいつも、静かだけど揺ぎ無い「喪失」と表裏一体だ。絶えず何かを失くしながら生きる人間の本質的な切なさをつぶさに見つめながら、けして感傷には溺れるまいとぴりっと皮肉のきかせたところが、私はとても好きだ。