パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

薔薇と接吻

薔薇と接吻 (幻冬舎ルチル文庫)

薔薇と接吻 (幻冬舎ルチル文庫)

永遠を生きる魔物と、うつくしい魔物に焦がれる少年のヴァンパイア・ロマネスク。
杉原さんの新刊は久しぶりのファンタジー作品。
「永遠の時を生きる者の孤独」といえば、杉原さんのデビュー作「星の国から」でも描かれていたテーマ。私はこのSFBLが大好きで、なかでも不死の命と引き換えに愛する者の世界から切り離されてしまった神官(だったかな?)の長い長い片想いを綴ったサイド・ストーリーには、身悶えするほどに萌えまくった。
不死の異形とふつうの人間のラブストーリーを描くとなるすると、どうしても最後には、永遠にともに生きるか、それとも住む世界が違うと諦めるかという選択が迫られる。
何をもって「ハッピーエンド」とするか、というのがこの手のお話の難しいところだろう。
個人的な好みをいえば、私は人間が契約によって永遠の命を得、愛する魔物と末永くともに暮らす…というオチがどーにも苦手なのだ。「永遠に生き続ける」ってのが、どうしても想像できないんだもの。
人生が一回きりじゃなければ、うれしいも、かなしいも、たのしいも感じることがあるのだろうか。私たちが生きているのは、いつか死ぬからだ。死なない生き物は、はたして「生きている」のだろうか。
関係性の物語としては、この永遠の婚姻というのはある意味で究極のハッピーエンドだろう。違和感を感じてしまうのは、物語そのものより読んでいる私自身の問題でしょうね。
ファンタジーを読むとき、私が読みたい!と思っているのは「恋の成就」以上に「限りある生をまっとうする姿」なのだ。
だからどうしても私の軍配は「星の国から」に上がってしまうのだが、「薔薇と接吻」ではしっかりBLの様式美のなかに物語をおさめてみせたことこそが、杉原さんのBL作家としての成長といえるのかもしれない。