パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

心の家路

心の家路 (花とゆめCOMICS)

心の家路 (花とゆめCOMICS)

くーっ、こういう傑作をさらっと描いてしまうから、遠藤淑子はやめられない!
「マダムとミスター」や「ヘブン」も大好きなのだけど、はじめて読む方にはぜひこの本をおすすめしたい。短編集だから手軽だし、擬似家族のホームコメディから大人のラブストーリーまで粒揃いの作品がきちんと納まっている。なにより、表題作「心の家路」がすばらしい。
この一話のなかだけで心の付箋を貼りつけた台詞が山ほどあるのだけど、ハルがジェシィに語ったこのことばには胸がつまった。

自分の気持ちをわかってくれる人なんか いないんじゃないかと思いながら
でも愛されたいと思っている

物語にのめりこむ人なら、多かれ少なかれ、誰もが共感してしまうんじゃないだろうか。わかってくれる人なんかいないと思いながら、それでも諦めきれずまだ見ぬ誰かを求めて、本の世界を彷徨い歩いている。
奇天烈なコメディだろうと、ずしりと重い悲劇だろうと、けして知性を失わないところに、彼女の漫画の持つ品格が生まれている気がする。
ジェシィもハルもレックスも感情に溺れることなく、まっすぐに悲しみや孤独を見据えようとする。
人はみな無力でちっぽけで、愛する人を救うことすらできない。そうした自分の弱さから逃げずに、寄り添い続ける勇気と覚悟をもつことだけが、私たちにできる唯一の「誠実」なのだろう。