パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

ジュリア / 十一年目

ジュリア (Eclipse romance)

ジュリア (Eclipse romance)

十一年目 (エクリプスロマンス)

十一年目 (エクリプスロマンス)

再読。
長いこと新作を目にしていない睦月朔子さんですが、いまも大好きな作家さんです。
短編集の「ジュリア」、「十一年目」ともにもう10年以上前の本ながら、あらためて読み返しても色褪せることがありません。
「十一年目」は長年義理の兄弟として暮らしてきた巽と啓一の、静かで烈しい恋の物語。
私の大大大好きな「育てられ攻め」で、それだけでもういうことなしっ!てなもんなのだけど、家族であるがゆえに遠慮のない巽と啓一の丁々発止のやりとりのあいだにふいに紛れ込む、家族であるがゆえに伝えられないくるおしい恋心。もどかしさに胸をかきむしられる。
睦月さんは、幼馴染みや義理の家族といった近しい関係にある人間との恋を描くのがうまい。それはおそらく関係性の変化、つまりは人間の成長を描くのがうまいということなのだろう。
登場人物たちはみな、己の恋をまっとうすることを恐れている。
いまにも溢れそうな激情を抱えながも、やるせなさにまかせてそれを相手にぶつければ、きっと大切なものを失ってしまう。だから彼らは力ではなく、言葉を尽くして、少しずつ互いの距離をより合わせていこうとする。長い時間をかけて築いてきた信頼を壊してしまうことなく、大切な人を傷つけることなく、寄り添い合いたいと願う。
彼女の書く物語にはたしかな知性と誠実さ、そして孤独に怯える人々への温かいまなざしが感じられて、そこが私はとても好きだ。