パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

春に孵る

春に孵る (バンブーコミックス 麗人セレクション)

春に孵る (バンブーコミックス 麗人セレクション)

国枝さんのストーリーテラーぶりが遺憾なく発揮された短編集。
禁忌に溺れる一族の業を描いた表題作は、さすが「花盛りの庭」を描いた作家だけある耽美な愛執の物語。
ちょっと切ないリーマンもの短編「当然の結末」がじつに私好み。
「ずっと友達のふりをしてたけど、じつはおまえのこと…」って、何べん読んでも萌えまくりの大好きなシチュエーションです。
作者もあとがきに書いてあるように、この掌編の肝は、ラストのキスシーンに尽きるんじゃないかと。時間が経てば、また友達として付き合えるんじゃないかと無邪気に言い募る村井の言葉を、聞きたくないと断ち切るかのようにくちづけた白川。
最後まで人を喰ったかのように(含みのある表現)飄々として、涙ひとつも見せない白川のやるせない恋心が、この哀しくもやさしいキスシーンに凝縮されている気がします。