パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

それでも愛してる

それでも愛してる (ビーボーイノベルズ)

それでも愛してる (ビーボーイノベルズ)

自由奔放な画家×四角四面のエリートサラリーマン。
西江さんの書くキャラクターは、純粋で真っ正直すぎて損をしている、みたいな人が多いのだが、本書の有田と辻もそう。「人に合わせてやりすごす」とか「笑って流す」とかいう、大人になれば誰もが「嘘をついている」なんて罪悪感すらなく行っていることができなくて、あちこち頭ぶつけながら歩いている。
そんな二人の恋は、当然「駆け引き」だなんて言葉とは無縁。不器用に寄り添い合っては、子どもみたいなやり方で想いを伝えようとする。
空に浮かぶ月を部屋に飾りたいと話した辻に、有田は、自分には絵は描けないが、代わりにあの月を取ってきて見せてあげると、冬の池の水を掌に掬い、その水面に月を映してみせた。
到底34の男がやることとは思えない…。
だけどこの古いおとぎ話のような、無心な子どもみたいな純情が妙にツボにはまって、新作が出るたび手に取らずにおれない作家さんである。
過去に因縁を持つ二人が再会する邂逅ものかと思いきや、途中から物語が辻と辻の養父兼愛人であった杉本との関係へとスライドしてゆき、本編で二人の過去への伏線が充分回収されなかったのがちと残念。