パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

野狐禅

野狐禅 (ドラコミックス)

野狐禅 (ドラコミックス)

形而上の世界だけで物語が展開しているいわゆる雰囲気漫画なんだけど、蛇龍さんの画力だとこういうの描いてもすごく様になる。
キャラクターの造型がいちいちツボにはまる。モンジの小動物めいたどんぐり瞳も、チバのうつろな半眼も、おハギの人臭い無精ひげもたまらない。表情に人間味があるから、言葉がうわっつらにならないんだろうな。
同時収録の「致死量分の愛を込めて。」もいい。
遊び人の高校生の内田は、からかうつもりで近づいた純情で真面目な同級生が気になり始める。しかし、「愛する」なんて感情も知らずに適当に人と付き合ってきた内田は、真実の恋を知った途端、天罰を受けるかのようにその恋を失ってしまう。
チョイ役の爺さんが因果応報を暗喩するじつにニクい仕事をしていて、ちょっとしたブンガク作品のような味わい。