パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

偏愛メランコリック

偏愛メランコリック (プラチナ文庫)

偏愛メランコリック (プラチナ文庫)

主人公二人が、そろいも揃ってズレた変人でおもしろかった。
自分の溺愛する人形にそっくりだ!といって、新米編集者の敦彦に、常識外れの熱烈アプローチをしかける人形作家の夏目。
だいの人形嫌いのうえ仕事相手に言い寄られて、内心恐々としながらも「仕事のためなら身体くらい…」となし崩しに夏目を受けいれてしまう無気力世代の敦彦。
敦彦視点から物語が語られるので、冒頭は夏目の変人っぷりばかりがクローズアップされるのだが、読み進めていくうちに、敦彦のほうも「押しの弱い優柔不断で気弱な人間」なんていう可憐なセルフイメージが剥がれ落ち、「面倒なことは避けて通るし、思ったことがすぐに顔に出る無神経な男」であることが暴かれてしまう。
自己評価と実際の人物像が食い違っている、というのよくあることだけど、「卑屈にならなくても、ほんとうのきみがステキな人だってことは知っているよ…」と、ネガティブな自己評価を覆し「ほんとうの私」が肯定されるのが正統派のロマンス小説。
そんな王道の裏をかいたところが、この本のおもしろさ。
「ほんとうのきみがたいがいだってことは知ってるけど、それでも好きなんだよ…」と、恋は盲目、あばたもえくぼを貫いて、夏目は恋を成就させてしまう。
偏執攻め×流され受けという夜花さんの十八番を、うまくラブコメに昇華している。これまで私が読んだのはシリアス中心だったので新鮮だった。こういうコメディももっと読んでみたいな。