パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

今宵、天使と杯を

今宵、天使と杯を (SHYノベルス266)

今宵、天使と杯を (SHYノベルス266)

新装版。旧版既読。
四方隆史、鈍感というより心の回路がどこかいかれている男。
柚木成彦、酔えば誰より気が大きくなる。
帯のキャラクター紹介が、じつにうまいこと特徴を掴んでいて感心してしまう。この本の魅力は、なんといっても王道のナナメ上をゆくキャラクター造形だ。
攻めは下っ端ヤクザで、気の利いたことのひとつも言えない朴念仁。受けは失業と離婚のダブルパンチに加えて、EDにアル中のいいとこなしの中年男。BLらしい華やかさも、男の色気もまるっきり感じられない!
なのに、この泥臭くみっともなく底辺でもがいている男たちの覗かせる悲哀と純情が、なんとも人間臭くていとおしいのだ。無表情で何を考えているかわからない四方も、どこにでもいそうな酔っ払いの中年でしかなかった柚木も、読み終わるころには「可愛い男だなあ!」と思えてしまう。
ラストシーン、旅立つ二人のはなむけに「さよならだけが人生だ」で有名な「勧酒」の一節が引用されているところなんか、いかにも英田さんらしいなあ。いぶし銀な浪花節が泣かせます。
南の島で暮らす四方と柚木の後日談「天使と暮らす島」も収録。幸せそうなその後の二人が見られて何より。