パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

ぼうや、もっと鏡みて

ぼうや、もっと鏡みて (白泉社花丸文庫)

ぼうや、もっと鏡みて (白泉社花丸文庫)

「愛はね、」続編。
ろくでもない相手と付き合っては、傷つけられてばかりだったゲイの望。幼馴染みである俊一はノンケで、いくら想っても報われる見込みのない相手。叶わない恋の苦しさから偽りのぬくもりにすがっていた望が、自分の弱さと向き合う決心するにいたる軌跡を描いたのが前作「愛はね、」。
この「ぼうや、もっと鏡みて」は、変わってゆく望の姿に揺さぶられ、こんどは俊一が、自分の心のなかを探ってゆくお話。
自分を想う望の気持ちを知り、慰めの抱擁やキスまで与えながら、俊一がけっして望を受け容れようとしなかったのはなぜなのか。いつだってそつなく「正しく」生きてきた俊一を、揺さぶり続けるたった一人の存在を疎ましく思いながら、切り捨てられないのはどうしてか。こっそり書き続けてきた小説に、託した願いはなんだったか。
俊一自身もまたうしろめたさを抱えて、長い長い片想いに苦しんでいたことが明らかになる。
いままで読んだ樋口さんの本のなかでは、この2冊がいっとう好きだな。
幼馴染み同士の切ない片恋物語であると同時に、望と俊一がそれぞれに、自分のほんとうの気持ちと向き合えるようになるまでの成長物語でもある。いちばん大切なものが何なのかって、自分でも案外わかってなかったりするものだ。
望も俊一も弱さやずるさをもつごくふつうの人間で、だからさみしさに溺れてしまったり、正しさを振りかざして傷つけたりしてしまう。変わってゆく痛みを恐れて逃げ回っていた少年たちは、もがき苦しみながらも、愛することを受け容れて大人になってゆく。
ほんとうに大切なものを、大切にする。たったそれだけのことができない不器用なふたりがいとおしかった。