パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

東景白波夜話 暁闇に咲う

東景白波夜話 暁闇に咲う (講談社X文庫ホワイトハート(BL))

東景白波夜話 暁闇に咲う (講談社X文庫ホワイトハート(BL))

「よしはら心中」を読んだ勢いで、ずっと積んでいた「東景白波夜話」を読破。奥付を見ると2009年3月発行となっているので、ゆうに2年は積んでいたんだな。とほほ。
栗原薫の激賞とともにデビューしただけあって、鳩かなこさんの本からは、昏い情念が渦巻くJuneのかおりがする。


継母から妾腹の子と蔑まれ、蔵に幽閉されて育った与一郎。何も見えない闇の中、寒さに凍えてただ死を待つだけだった幼い与一郎に手を差し伸べてくれたのは、自分と同じ年のころの狐面の少年・藤吉だった。
藤吉のかいがいしい看病で与一郎は一命をとりとめる。与一郎が匿われた先は、帝都の盗人たちを取り仕切る稀代の掏り・水燕の熊の屋敷であり、藤吉も神業と称される掏りの名手だった。
もうあの暗闇のなかには帰りたくない。与一郎は熊の子として生きる覚悟を決める。熊次と並ぶ技量を持ち跡目と目される藤吉と、脚が不自由なために掏りとしての腕こそ振るわぬものの、熊次の養子として組織を裏から支える与一郎。同じ親をもつ者として兄弟同然に支えあい、ともに生きてゆくはずだった。
しかし、留まることない時代の変化と、互いへのおさえきれぬ想いに、固く結び合わされていたはずの二人の絆はもろくもほどけてゆく。
やっと手にした「家族」への情こそが、帰る場所のない与一郎にとって唯一の拠り所だ。ほかの何に変えても与一郎を守ると決めた藤吉の愛情が、はからずも与一郎を苦しめ追いつめる。
愛するがゆえに憎みあい信じたがゆえに許せずに、ふたりの道は分かたれてゆく。


現代ものならば陳腐になりそうなほどに大仰な愛憎劇も、違和感なく楽しめるのが時代もののよいところ。
キャラクター小説としてはやや喰い足りない気もするものの、細部まで行き届いた綿密な描写からたちのぼる大正浪漫の雰囲気に酔わされます。