パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

兄弟のお作法

「ブロードキャストを突っ走れ!」のスピンオフ作。

京都で四百年の伝統を誇る狂言一門・久納家に生まれた、葉月と卯月。兄弟であり、ともに芸の道を究めるパートナーである二人だが、卯月は美しい兄・葉月への想いで頭がいっぱい。ついには稽古の最中にまで、あらぬ妄想にとらわれて悶々としてしまう始末で…!?

これまた長らく積んでいた山の中から取り出した一冊。
「血の繋がった兄弟同士」ということで、インセスト・タブーの苦手な私はついつい敬遠してしまっていた(じゃあなんで買ったんだ?)。
読んでみると、これが思いのほか肌に合った。兄弟もの大好き!男同士で子どもができるわけでもないのに、何の問題があるの?禁断愛バッチこい!という向きには物足りないかもしれないけれど、「愛さえあれば」とはそう簡単に思えない私みたいなのには、これくらいもどかしくてちょうどいい。兄弟と恋心の間を揺れ動く関係が、軽妙な関西弁のやりとりとともにコミカルに描かれていて、そのシリアスになりすぎないさじ加減もよかった。
自分でも自分の気持ちのよくわかっていない葉月がたまにほのめかす嫉妬は、露骨な濡れ場の何倍も色っぽい。ほんのわずかな感情の揺れが、これほどあやうく感じられるのは兄弟だからこそ。
互いに兄弟でありつづける覚悟で、それでも葉月を諦めないと決めた卯月。卯月の己への想いを断ち切らなかった葉月。あえてこたえをださずに終わったことで、二人の関係がいっそう特別なものに感じられる。
狂言一族らしい「間」の表現に、いっぽんとられた。