三度目のキス
- 作者: 火崎勇,高久尚子
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2000/03
- メディア: 文庫
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剛しいらなんかもそうだが、多作な作家さんて手を出しづらいのだ。あまりたくさんあると、何から読んでいいかわからなくなってしまう。典型的な作家買いで、カップリングや設定に惹かれて本を買うことがそもそもない。たまには新しい裾野を拡げなきゃ、と古書店で好みに合いそうな本を選んできた。
はじめての恋でつらい別れを経験して以来、恋愛に本気になれないシナリオ・ライターの太一。仕事もプライベートも宙ぶらりんのままくすぶった日々を送る太一の前に現れたのは、十五年前に死んだ親友・章吾の生まれ変わりだと名乗る少年・麻人。章吾は太一にとって、最初で最後の恋の相手でもあった。ありえないと思いながらも、太一は無邪気になついてくる麻人を拒むことができず、奇妙な同居生活がはじまる。
うん、これは当たり。
シナリオライターという華やかなイメージのある職業に就きながらも地に足着いた太一の働きぶりや、太一と章吾の「傘の家」の思い出など、心惹かれるエピソードが散りばめられていて、地味ながらも読ませる作品だった。
太一と同僚のシナリオライターの何気ない会話ひとつとっても気が利いている。
人の人生を背負う責任の重さと相手への気持ちとの間で、恋人との結婚を迷っている同僚に、太一は「失うのは怖いか?」と尋ねる。怖いというよりも寂しいと応じた同僚は、太一にこう語って聞かせる。
「いい年だからさ。なあ貴家、お前は一人で生きてけるかも知れないが、人間ってのは普通一人じゃ生きていけないもんなのさ。子どもの頃には親がいる。ちょっと育って若者の頃には一緒に遊び回れるダチがいる。んでもって、もっと大人になると一緒に呼吸してくれる人間が欲しくなんのさ」
「一緒に呼吸してくれる人間」。毎日誰もいない家に帰るひとり者には、なんだか身につまされる言葉…。
本編とは直接関係ないやりとりに、こういう光る部分があると、物語がぐっと立体的に立ち上がってくる。BLは受けと攻めのふたりきりでも完結できる世界だけど、当て馬だって女の子だって同じもの思う人間。脇役にもきちんと人格が与えられた作品はいいなと思います。