ピアノの森 1-19
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カイのライバルである雨宮に強烈に感情移入してしまい、後半は読んでいてつらかった…。
カイのまばゆい才能は、同じ道を志すものには毒にもなる。
裕福な家庭に生まれた二世ピアニストとして、何不自由なく栄光を手に入れるはずだった雨宮は、「ほんもの」の天才ピアニスト・カイに出会ったがために修羅の道を歩むことになる。サラブレッドとはいっても、雨宮のピアノは手堅いが型にはまった技巧的なもの。雨宮はカイの奔放で生命力に溢れた演奏に打ちのめされる。
「自分らしさ」とはなんなのか、カイと自分は何がちがうのか、努力では手に入らないものがこの世にはあるのか。雨宮は真剣に苦悩しているのだけど、恵まれて育ったがゆえのあまさも見え隠れする。他人と自分を比較することでしか、彼は自分の価値を測れないのだ。
カイのピアノを知ったことで、雨宮は自分にも醜くどろどろとした感情があることを知ってしまう。カイの演奏に惹きつけられるほど、雨宮の心は黒く染まっていく。どこまでも健やかに秘めた才能を解いてゆくカイと、求めるほどに追い詰められてゆく雨宮との残酷な対比は、巻を追うごとに鮮明になってゆく。
自分には特別な才能がないことを思い知らされながらも、雨宮はピアノから離れられない。彼がこの先、彼にしか弾けないピアノを見出すことはできるのか。それはどんな演奏なのか。
長年解けなかった問いの答えを待つ気持ちで、雨宮のゆくえを見守っている。