パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

鷺と雪

鷺と雪 (文春文庫)

鷺と雪 (文春文庫)

やはり「日常の謎」系の作家のなかでも、北村薫の巧さは格別だ。
日々の暮らしのなかに潜む「不思議」を「謎」として解き明かすミステリー作家としての巧さはいわずもがな。どんなにささやかな「不思議」の奥にも必ず、目には見えないひとの心の機微が隠されている。その複雑な心のひだを、するするとほどいてしまう洞察の深さに、いつもはっとさせられる。
人間がけっして抗うことのできない「時間」というものの残酷さが、北村薫の小説にはたびたび描かれる。ひとの命には終わりがあり、誰しもがいつかこの世を去る。
表題作「鷺と雪」のラストシーンの清冽なせつなさすら、私たちが限りある命を生きているからこそ感じえる感情だ。来るべき残酷な別れがこの時代によるものであるならば、奇跡的な一瞬の解こうもまた、時のいたずらなのだろう。
身を裂く叫びのような予感を覆い隠して降り積もる雪の絵に、坂田靖子の「村野」を思い出した。