パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

春になったら苺を摘みに

春になったら苺を摘みに (新潮文庫)

春になったら苺を摘みに (新潮文庫)

著者の英国留学時代のエピソードをもとにまとめられたエッセイ。
下宿先の主であったウェスト夫人の「理解はできなくても、受け入れる」という有り様が、彼女の魂の血肉となり、創作のなかに脈々と受け継がれているのを感じる。
梨木さんの創作作品にたびたび登場する偉大なるおばあちゃんは、ウェスト夫人への敬意から生まれたのだろう。
たとえ自分の倫理道徳では受け入れられないような生き方にも、その人なりの道徳があり、流儀がある。自らをとりまく境界や身に染みついた善悪をこえ、「放浪者」の目で物事を見定めようとする著者の潔癖な誠実さは、ときに痛々しくすら感じるが、目をそらせない。
冒頭に収録された「ジョー」からひと息に世界に引き込まれた。