パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

花は咲くか 3

花は咲くか (3) (バーズコミックス ルチルコレクション)

花は咲くか (3) (バーズコミックス ルチルコレクション)

ウブな若者にほれて、これまでの経験値が通用せずに右往左往するおっさん・・・この純情、プライスレス!
ゆっくり、でも確実にすすんでゆく恋の「空気」みたいなものが、古い平屋の暗がりにしっとり満ちている気がする。派手な演出はなにもないのにぐっとくる。
3巻で個人的に素敵だなと思ったのは、本屋でのふたりのなにげない会話。桜井は忙しさを顧みることなく、つぎつぎ興味のある本を手にとっていく。齢を重ねてなお好奇心を鈍らせることない彼の感性の瑞々しさが伝わってくる。蓉一が手にした写真集を見て、その作家が気になるなら本を貸そうかと声をかける。
このシーンの桜井は、蓉一の恋人というより、蓉一の目指す世界の一歩先をゆく「先輩」という印象だ。同じ世界を共有するものへの親しみを忘れることなく、自分の持てる知識を惜しみなく分け与える。美術について語る桜井の目には虚栄もおごりもなく、ただひたすらに楽しそう。
あと十年で、自分もこんな大人になれるだろうか。あとから来るものに、知識や経験、なにか渡せるもの、分け合えるものを持っていたい。
「これから一年」のことをぼんやり考えていた新年の折に、よい指標をもらった。