パラスティック・ソウル〜はじまりの章〜
- 作者: 木原音瀬,カズアキ
- 出版社/メーカー: 新書館
- 発売日: 2012/01/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ある科学者が遺した「願いを叶える薬」を手に入れた者たちが、叶わぬはずの願いを叶えてしまったことからはじまる、切ない愛の物語。木原音瀬の小説だけあって「願いを叶える」といっても、あまいハッピーエンドは用意されていない。
何かを得ることで、必ずひとは別の何かを失う。手に入れることと、失うことはある意味では同じこと。願いを叶えた瞬間から、登場人物たちは失う恐怖に怯え、苦しみはじめる。
手に入らなければ狂おしく、手に入れば恐ろしい。愛とはかならずしも春の日差しのようにあたたかなものではなく、ときにひとの人生を翻弄し、深く苦しめるものでもある。それでも、愛することをやめることはできないのが人の業。折り重なってゆく報われぬ想いたちはどこへ辿り着くのか。
これはまったくのBLというわけではないんですね。「小説WINGS」や「カグヤ」誌など、新書館から刊行されている小説・漫画誌をまたにかけて連載された「ファンタジー(もしくはSF?)小説」でもある。
そう考えると、「はじまりの章」の段階では「国境がなくなり、世界政府が発足した近未来」という設定が活かしきれていない気もする。なぜ国境のない世界を舞台とする必要があったのか、はっきりしない。
国境がなくなるということはつまり、国家というシステムが崩壊、もしくは統合されたということ。まさに世界規模の大革命だろう。超高速航空機の開発による移動時間の大幅な短縮、という要因は必要条件にはなれども、国境を消失させるほどの「動機」としてはものたりない。
なんとなく近未来っぽさを出すための設定かとも思うけれど、せっかくの「枠」をはずれた連載なんだし、関係性だけではなく世界観も掘り下げてくれるといいな。下巻を楽しみにしています。