パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

ファントムレター

ファントムレター (幻冬舎ルチル文庫)

ファントムレター (幻冬舎ルチル文庫)

砂原糖子の小説には、「家出息子」がよく出てくる。
何らかの理由で帰る場所を失った少年が、人を愛し、愛されることを知ることで、ああ、自分にもたしかに愛されたことがあった、遠い日に失くしたはずの宝物はまだ心のなかにあったんだ、ということを思い出す。
彼女はくりかえし、「家出息子の里帰り」を描いている気がしている。
「ファントムレター」の主人公・真頼もまた、そうした家出少年のひとり。
この本、BLとしてはかなりユニークな構成である。
故郷・鹿児島を離れ都会の片隅で働く真頼が、幼なじみでありかつての恋人だった田倉とふたたび想いを通わせる「東京編」。両親の離婚で都会を離れ、鹿児島で暮らすことになった少年・治が、納戸で見つけた「まより」という少年の手紙に、自分が抱える同級生・双葉への恋心を重ねてゆく「鹿児島編」。
ふたつの異なるストーリーが平行して進行し、やがて重なり合ってゆく。いちど別れてしまった恋人たちの10年越しのラブストーリーであると同時に、少年たちが謎の手紙をもとに失われた恋をよみがえらせるミステリーとしても読むことができて、とてもおもしろかった。