パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

meet,again.

meet,again. (ミート・アゲイン) (ディアプラス文庫)

meet,again. (ミート・アゲイン) (ディアプラス文庫)

溜め込んでいた一穂ミチの本を、やっとすべて読了。
最後に残しておいた「雪よ林檎の香のごとく」スピンオフ。読み終わえて、「たどり着いた」という言葉がぽっかりうかぶような、胸の錘となる物語だった。デビュー作同様、彼女の創作の核がたしかに刻まれていると感じた。
久しぶりに本を読んで芯からぞっとする思いをした。
かこいという男の空洞に震え、憤り、いっそ嵐の代わりに私がこいつをなぐってやる!と奮い立つほどの激情にかられた。でも、嵐がゆるしてしまうから。どれほど手酷く傷つけられようと、自分が傷つけられた痛みで人をなぐりかえすことはしないと、嵐は決めている。だから私も「こんな奴、嫌いだ」と投げ出してしまうことができなかった。
信じることや、愛することは、とことんまで突き詰めれば一方通行にしかなりえない。
報われなくても、通じ合わなくても、かこいを好きな自分と付き合っていくことを選んだ嵐は、捨て鉢になったのでも、諦めてしまったのでもない。「好きだから好きでいる」と決めた志緒と同じ、それは強烈な「意志」の表明だ。
人は誰もが幸せになりたいと願う。でも、幸せを目的としない人生もあるのだ。そういう人たちには「選んだ」という実感すらないのかもしれない。気が付けば引きずり込まれて、巻き込まれて、身を投げ出している。迷う暇すらなく、覚悟を決めてしまう。
一穂ミチは、そんな苛烈な生き方しかできない人間、つまりは運命を知ってしまった人間を描く作家なのだと思う。