パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

てのひらにひとつ

てのひらにひとつ (ディアプラス文庫)

てのひらにひとつ (ディアプラス文庫)

夕映さんの新刊がでた〜〜〜!!
デビュー作から早一年以上。もしかしてこのままフェードアウトしてしまうのかしら…とほんのり心配になっていたのでうれしい。
演奏家としての夢を諦め、ゲイであることから恋心もひた隠してきた大学生の和音。求めすぎない。期待しない。ただ平凡に穏やかに暮らせれば、それでいい。
そんな風に日々をやり過ごしていたある日、アルバイト先の進学塾に医学部受験を志す社会人・日下が入塾してくる。
眼鏡の奥のたれた目じりがいかにも善良そうで、年下の自分にも丁寧な姿勢を崩さない絵に描いたような「いい人」。そんなやわらかな人柄とはうらはらに、強い信念を持って日下が夢に挑戦する決意をしたのを知って、和音は彼の力になりたいと思うようになる。
和音も日下も、小川の小石みたいな人たちだ。誰の目にとまることもなくても、真面目に働いて、地道に生きている。何も特別な人ではない私たちの隣人。
そんな平凡な人生もじっと見ればひとつひとつかたちがちがって、深いかなしみやささやかな喜び、言葉もいらない幸せといった豊かな表情を湛えている。
読み終わるころには、何もない毎日がすこしいとおしく思える一冊。