パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

まだ恋は始まらない

売れない漫画家・月見里(やまなし)先生には、有能なアシスタントがいる。
締め切り前になると愚痴と弱音ばかりの月見里先生を、飴と鞭で面倒見てくれる一(にのまえ)くんだ。口ではいつも厳しいことを言いながらも支えてくれる一に知らず甘えていた月見里だが、一が自分の作品を描いていないことを知り、距離を置こうとする。
代表作といえる作品もない月見里先生、才能がありながらも完璧主義がたたって量産できない一、作品を愛しながらも掲載誌の方針で打ち切りを告げなければならない担当編集者。
好きなものを好きなようにかけるなんて人はほんの一握りだけで、多くの人たちは彼らのように不安や葛藤を抱えながらも「描く事しかできない」人たちなんだろう。なんの保障もないなか自分の腕一本で食っていくということの厳しさが伝わってきて、身につまされた…。
それでも読後にすがすがしい気持ちが残るのは、月見里先生が一くんに置いて行かれないよう、懸命にもがいていたからだろう。連載は打ち切りになってしまったけれど、作品を最後までまっとうさせた先生の表情には達成感があった。スケールは違えども、これもまたひとつの「バクマン」だよね。
どれだけページをめくってもも基本上下ジャージというしゃれっ気のなさもリアル。たしかに漫画家って外にでないもんね。笑
金田さんの筆にかかると、ジャージのおっさんすらそこはかとなく耽美だ。