パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

34歳無職さん 5

ついに娘がお泊りにやってくる。
大きなイベントが発生した5巻だけど、6畳一間のささやかな営みを淡々と描く作風が突如泥沼母娘戦争に変容するようなこともなく。いつもひとりの空間に娘がいる、というひとひとり分のぬくもりとかすかな緊張感。久しぶりにあえば親子もやはり他人同士にちがいなくて、自然な距離ってどんなものだったのか戸惑ってしまう。ぎこちない母と娘のやりとりが、ほほえましくもせつない。
娘が帰ったあとの、部屋が急にがらーんとした感じがリアルで、うわあぁってなった。あの一瞬だけはほんとに、ひとりで暮らしているのが嫌になる。
でも、深い穴に落っこちたような虚無感だって、時間が経てば薄れて消える。いっしょにいられない罪悪感のようなものを感じながらも、無職さんは微妙な娘との距離を「しばらくはこんなカンジ」だろうと受け入れる。
嵐から逃れるように、穏やかな日々を積み重ねていく無職さん。この静かで鮮やかな日々をずっと見ていたいけど…働かずには生きていけないしなあ。徐々に「これから」のことも気になりはじめた半年目。いまのところ、花束を持った王子様や、主人公の秘めた才能が開花する予感もない。
この「何もない」物語が今後どこへ転がっていくのか、もうひとりの自分を眺める心地で楽しみにしている。