パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

アメコヒメ

これはなんとも独特の世界観。ぐっと掴まれるものがあった。
母親が自殺して以来、ひとりで暮らしている野呂は、ある日道端で焼けただれた少女をひろう。たちまち回復した彼女は、動物の子のように一途に野呂を慕うようになる。純粋すぎるふたりの絆を、野呂の数少ない友だちであるアキラは、どこか怖いような気持ちで見守っていた。
まだ誰かに守られるべき年頃から、ひとりで生きることを考えなければならなかった野呂。そんな野呂のことを心のどこかで蔑みながらも、気にかけてきたアキラ。野呂を守ってやるはずが、野呂といるとアキラはまるで自分のなかにある昏い感情を暴かれていくような心地になる。
優越感、不安、恐れ、さみしさ。そういうものは誰のなかにも当たり前にあるもので、いつかは向き合わなければならないもの。そういう負の感情にまだ慣れていないアキラの涙と、すべてを受け入れてしまったような野呂の笑みの対比がなんともいえない余韻を残す。
大人になることの痛みを感じさせるような、不思議と澄み渡ったビルドゥングス・ロマン。