パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

わがままちえちゃん

志村さんがエロスを描くと、けっこうな頻度でオカルトが混じるのはなぜだろう。
それもあくまでファンタジーではなく、現実の延長線上。生活感をまとった性描写と日常に紛れ込むオカルトは、案外似ているもんなんだな…。不思議なほど違和感がない。
じつは二話までは「ちえちゃん」の夢のなかのお話だったということが、三話でさらっと明かされたおかげで、「え?こっちは夢?それとも現実?どっちがどっち?」とかなり戸惑った。
事故で双子の妹・さほを喪ったちえ。変わらないままの妹をおいて、自分だけが大人になっていく。ケンカしたままさほと別れたことを悔やむちえは、さほの痕跡を探して、今夜もまた夢を見る。
双子っていうのは、自分の「半身」として描かれることが多い。大好きで、大嫌い。そして、その複雑な愛を意識することもなく、誰もが大人になっていく。しかし、ちえはまだ自我が不完全なうちに、半身であるさほを喪ってしまった。
彼女は毎夜「都合のよい夢」を見て、嫌いだったはずの「セックス」をして、さほと似た声の少女とキスをする。少女らしいときめきや、禁忌への背徳感はまったくない。夢から覚めたちえはいつも涙を流しているのに、まるで通過儀礼のように淡々と日々をやりすごしていく。
まるで死んださほの代わりに生きているような生への実感のなさこそが、彼女が自分に課した罰なのだろう。
どんな悲しみも痛みも、いつか忘れてしまう。きっとちえには、その事実が何よりつらいのだろうけど、生きていくというのは忘れていくということだ。
さほの声はきょうも聴こえない。それでも、ちえはゆるやかにちえ自身の日常へ戻っていく。
ちえの嘘はどんどんはがれてゆき、最後にはミステリアスな美少女でも、妹おもいの姉でもない、さほが大嫌いで大好きだった、わがままなちえだけが残った。人は我が身を守るためなら、自分自身にすらいくらでも嘘をつけるものなんだよね。真実を受け入れるには、いつだって勇気がいる。
赦しも救いもないままに、それでもちえの人生はここからまたはじまるんだろう。