パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

唇にコルト

唇にコルト (リンクスロマンス)

唇にコルト (リンクスロマンス)

萌えたー!キャラクターも文章もすごくツボ。
佐倉さんの描く男同士は、到底一筋縄じゃいきそうにない緊張感に漲っていて、今回もはらはらドキドキしながら読了。
この「唇にコルト」は主人公が熱心なシャーロキアンだった祖父の薫陶を受けた探偵稼業ということもあってか、どこか古式ゆかしい翻訳小説めいている。あやうい大人の駆け引きを引き立てる、硬質でありながらも隠しきれない艶の滲む文章にすっかり耽溺してしまった。
探偵事務所を営む平沢翼(たすく)と、現在失業中の元刑事・平井輝之。互いに過去に云いえぬ瑕を抱える男たちは、一夜限りの情事をかわして別れた。しかし、なんの運命のいたずらか、まるで引き寄せられるかのように彼らは再会を繰り返す。
重なる時間、重ねる肌。会うたびに互いを知ってゆく中で翼と輝之は惹かれあってゆくが、翼には人に知られてはならない裏稼業があり…。

海軍士官と海賊の恋を描いた「緋色の海賊」もそうだったけれど、今回の翼と輝之も、対極の信念を持つ者同士。
かつて自らの正義を貫き組織を追われることになったほどに、潔癖な倫理観を持つ輝之は、決して翼の裏稼業を認めることができない。そのことを深く理解する翼は、無防備に自分に愛を告げる輝之を頑なに拒み、同時に抑え難くひきつけられてゆく。けして二人の生き方が重なりあうことはない。だからこそ、傷つけあうまえに離れようとする翼。それでもなお、寄り添いあいたいと願う輝之。
どこまでも正反対で譲らない男たちの、ときに軽妙でときに淫靡な駆け引きをあますことなく堪能。ゆずれない信念と愛がぶつかりあってこそ、男同士は輝くってもんだ!
あ〜、これ続編ないかなあ!
探偵ものだし、二人の過去にはまだいくつもブラックボックスがあるし、もっと二人の丁々発止のやり取りがみてみたい。