パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

花はニセモノ

花はニセモノ

花はニセモノ

神様のおせっかいによって、片方を女に変えられてしまったゲイカップルの受難話。
これで子どもも作れるし好都合…といくかといえば、もちろんそんなことはなく。男しか愛せない森は、女になってしまった歩を愛することができるのか思い悩む。
当事者の歩はわりとすんなり女である自分を受け入れていて、むしろ森のほうが戸惑っているところがおもしろい。
もともと歩はゲイじゃないけど「ま、いっか」くらいの軽やかさで森の告白を受け入れたみたいなので、自分のジェンダーにあまりこだわりがないんだろうな。いまここにいる、ありのままの自分が自分。いっぽうの森は、ずっとセクシャル・マイノリティであることに悩んできた経緯があるぶん、自分のパーソナリティに関わる部分を安易に覆せない。
「男とか女とか関係ない、お前だから好きになったんだ」なんて、究極の愛の境地にいたるのはなかなかに難しい。(だからこそBLはファンタジーといわれるのだろうけど)何を愛するかというのは、自分が何者なのかということにも等しいからだ。
男と女ではどうにもかみ合わず、元に戻ったふたりだけど、結局いつだっていっしょにいたのはお互いだったってところが、何よりふたりの愛の証なんだろう。
学生時代のノート漫画みたいな素朴な線が、どこかなつかしい雰囲気にぴったりだった。