パン屑の道しるべ

読み散らかした本をたどって

FINAL CUT

FINAL CUT ファイナル・カット

FINAL CUT ファイナル・カット

この「FINAL CUT」が白泉社初のホモ本だそう。
花丸というレーベルもなかった段階で、堂々とホモの、しかも小説本を出版するなんて、さすが少年愛桃源郷だ。95年WHで文庫化されている。加藤知子の挿絵に惹かれて買ったのだけど、よいJuneだった。
美貌の青年映画俳優マーティン・ジェイと、彼を愛した三人の男たち。
ダグラスもギルもアッシャーも、確かに彼を慈しんだはずなのに、誰のもとにも留まれなかったジェイが悲しい。運命という名の強大な流れになんとかおし流されまいとする、木っ端のように無力な人間の抗い。
最後のジェイの選択が絶望の果ての諦念でなく、なにもかもままならなかった人生を自らの手に取り戻すためであったとしても、やりきれない。「もし、あの時」と振り返らずにおれない。
どん底におとされてなお、あきらめきれないこの苦い後味こそがJuneだ、と噛み締める。